……私自身が幼少だった頃を思いかえすと、母方の祖母などに連れられて、従兄・従姉らと共に湯河原や箱根の温泉宿に滞在したことが何回かあった。しかし、あの時分の子どもというのは、まず、親からして「しょせん、我が子は人様にとっては猛獣のようなもの」という自覚を持っていたから、子どもたちは公共の場所に出たとき、まるでサーカスのライオンか何かででもあるかのように、親の指図どおり、ぴたっと口を閉じたり、動かなくなったりしたものだった。
食事をするときも、客室にお料理を運んでもらうからほかの人の迷惑にはならない。しかし、そんなときでさえ、食事をしながらふざけていたりすると、祖母が烈火のごとく怒って、子ども自身はもちろんだが、「しつけがなっていない」といって、両親も揃って怒られたものである。
少なくとも私が子どもの頃までは、「子どもだから仕方がない」などという言い訳は世間に通用しなかった。
温泉はおとながゆったりとくつろぎに行くべきところ。騒々しい「猛獣」たちをなんとか静かにさせるには、まず、「猛獣使い」たちの再教育から始めなければならないのかもしれない……