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……それにしても、今度の大震災ほど私の日本に対する不信感を募らせる出来事はなかった。いままでこんなことを思ったことはないのだけれど、今度だけは、真剣に「国籍は、やっぱり、アメリカかカナダのほうがいいかもしれない」と、一瞬にしろ、考えたことは事実である。なにしろ、この国は、地震発生から半日以上が過ぎても、被災した自国民に対して、いったい何をしようとしているのだか、まったくわからないような状態だったのだから……。 なにより怖いと思ったのは、被災した人たちのための食事や飲料水が、迅速かつ充分に配られなかったという事実そのものも当然のことだが、それよりも、こうした情報がCNNなどを通じて克明に世界中に報道されたということである。 もちろん、燃えさかる火事の炎を消すこともできず、救助の人員を秩序立って送り込むこともままならず、必要な食料が届けられないというのは由々しき事態に違いない。 しかし、日本がそういう状況をまったくコントロールできないということが、これほど露骨に暴かれたというのは、戦後初めての、まさに不測の事態だったのではないだろうか。 要するに、「金持ちで頭がイイ」と思われていたからこそ一目置かれるようにもなった日本が、結局は「ただの頭の悪い金持ち」にすぎなかったということが、世界中に知れ渡ってしまったのである。
(本文137〜138ページ)
……私にとっては、「神戸」という、経済的立地条件と観光資源に恵まれ、文化度も高い、いうなれば、日本がここしばらく謳歌してきた繁栄の縮図ともいうべき都市が、一瞬にして灰塵に帰するのを目の当たりにしたことは、物理的な破壊という認識を超えて、日本という国が戦後追求してきた理念・価値観の崩壊そのものとも映り、はかりしれないほどの衝撃を覚えた。 しかし、その同じ光景を見て、日本を代表するビジネスマンたちが「これで仕事が増える」という思いしか抱かないのだとしたら、私は同じ日本人として、あまりにも情けない。 熟年ビジネスマンの皆さん。 あのビルを建てたのは、あなたたちだ。あの高速道路を作ったのも、あなたたちだ。そして、マスコミに代表されるように、あなたたちが批判する政治家はあなたたちが選んだもの。そして、あなたたちが批判する官僚組織も、あなたたち自身が作り上げ、長年、誇りにしてきたものではありませんか。そのすべてを否定するのは、戦後の日本そのものを否定するようなものです。五〇年間にわたる戦後日本の民主主義国家としての繁栄とは、そんなものだったのでしょうか……?