……そう思っていたら、別の大新聞の編集委員が、
「日本の政治はあまりに腐敗しきり、経済の今後もお先真っ暗だ。こんな日本に将来はないというわけで、親しい友人たちのあいだで、日本を捨てて亡命したいという願望が流行っている。さりとて住みたいような理想国があるわけではなく、困ったものだ」
というようなことを書いているのを発見した。
私は思わず、
「冗談はいい加減にしてよ!」
と声を出して机を叩き、たとえ冗談にせよ、これがジャーナリストが言う言葉かと、心底腹立たしく、かつ、情けなく感じたものである。
編集委員と言えば、通常、20、30代のわけがない。少なくとも40代の後半から定年間近までといった年齢層の人たちである。その彼らが、「日本の政治は腐敗しきっている」といっているが、いったい彼らに選挙権がなかったとでもいうのだろうか?彼らが自ら選び、議会へ送り込んだ政治家たちが過去20〜30年の日本の政治を動かしてきたのではなかったのか? それを「亡命してしまいたい」などという厚顔さ。
自らにはなんの責任もなく、心清らかな被害者に過ぎないというポーズは、「ちょっとあんまりじゃないの、おとーさん」という感じである。それと、本物の「亡命者」と接したことのある人なら誰でもそう思うに違いないのだが、いまの物質的に豊かな日本に暮らしていて、「お先真っ暗だから亡命したい」などという発言をするのは、不謹慎きわまりないにもほどがあるというものだ。現実に、政治的信条によって迫害を受けたり、経済的な事情で、生命の危険を冒してまで祖国を捨て、亡命という選択をせざるを得ない人たちが世界中にこれほど多く存在しているというのに。
しかし、我が日本国では、こういうジャーナリストたちがアメリカの銃社会批判や家庭崩壊についての記事を書き、政治家たちの責任を追及し、自衛隊の海外派遣や日本の国連常任理事国入り問題について論評を下しているのだ。そして、海外のジャーナリストたちは、そういう記事を読んで、日本人ジャーナリストの背後には同じ意見の日本人が見渡す限り並んでいるに違いないという前提に立って、「日本人論」や「日本のマスコミ論」を書く。これは、ちょっと怖い。もちろん、人の振り見て我が振り直せということはあるわけだが……。