……ノルマンディー上陸作戦50周年のドキュメンタリー番組や、上陸地点の海岸で行なわれた記念式典の中継をテレビで見た私は、いまさらのように、同じ歴史でも当事者が違えばまったく受け止め方が違うのだということを思い、そういう表現をすることが正しいか否かはともかくとして、欧米の老人たちが言うところの「正義のための戦争」の意味をつくづく考えさせられることになった。
フランス側の高台に築いた要塞から、連合軍を迎え撃った旧ナチス軍兵士は、 「私たちは撃ちまくり、上陸した兵士は皆倒れました。しかし、撃っても、撃っても、海の向こうからアメリカ兵を満載した船が押し寄せてくるのが見えるのです。その様子を見たとき、ドイツは敗れたと確信しました」
と、穏やかに語っていた。もしも、あのときノルマンディーでの上陸に失敗していたら、もし、アメリカがイギリスへの経済的な支援と物資の補給だけにしか力を貸さず、実際に軍隊を送ることを拒否していたら、いったい、ヨーロッパはどうなってしまっていたのだろうか?
おそらく、その恐怖心が、イギリス人にあれほどまでもアメリカを礼賛するドキュメンタリー番組を作らせたのだろう。アメリカは、ノルマンディー上陸作戦に参加し、それを成功させたことによって、戦後のヨーロッパに対する絶対的優位を確立したのである。
「征服もせず、求めも望みもせず、世界第一等の地位についた米国民」というアンドレ・マルローの言葉を、私は、フランスの文化大臣を務めたほどの人がいう言葉とは思えないと、半ば軽蔑していたのだが、彼があの戦争を生き抜いたフランス人であったことを思えば、もしかすると、それは、本心から出た言葉だったのかもしれない。 とはいうものの、来年は戦争終結50周年ということになるのに、いまだにヨーロッパはアメリカに対して頭が上がらないというジェスチャーを続けているとは、信じ難いことではないか。以前からヨーロッパ人が……。日本人の見ていないところでアメリカ人に揉み手をするのを見たことはあったけれど、私たちは、ヨーロッパ人がアメリカ批判をするときには眉にツバをつけて、何割か割引いて聞くようにしないと……