……日本円の対ドル・レートが100円を割るような昨今、数字上では日本人が世界一の高給取りであるかのような錯覚に陥ったとしても無理はないだろう。しかし、日頃、日本で暮らしていて、タクシー代が高い、食費が高い、アメリカと比べたら電話代が信じられないぐらい高いということなどを考慮すれば、単に多くのゼロが財布を出入りしているだけに過ぎないということに、すぐ思い当たるはずだ。
数字で比較することが大好きな日本人ビジネスマンのなかには、
「アメリカの会社でMBA持っているようなヤツでも、年収って七万ドルちょっとぐらいしかもらってなかったりするんですね。ボクら、景気が悪いっていっても、三〇代半ばで、その倍ぐらいでしょ」
などと、嬉しそうに話す人がけっこういる。そういうとき、思わず私は、
「でも、アメリカで七万ドルあったら、高級コンドミニアムの頭金を払って、けっこういいクルマが無理なく買えて、いろいろ遊べるパソコンも買えて、それからバルバドスで二週間ぐらい遊んで、美術館に500ドルぐらい寄付して、それでもおつりがくるじゃないですか? 日本で年収が1,500万円あっても、住宅ローン払っちゃったら、残りでいったい何ができます?」
と、意地の悪い質問をしてしまう。
すると、彼らはすかさず、
「それは日本の不動産価値が非常に高いからですよ」
と、少しも悪びれずに答える。日本の不動産価格が高いことが、あたかも日本人の誇りででもあるかのようだ。
本来、より少ない金額でより広い土地を買い、安い代金で食料や生活必需品を調達することが可能であることこそ「豊かな暮らし」だったのではないのだろうか? しかし、現在の日本では、より多くの金額を支払ってより小さな土地を買い、世界でも稀なほど高い代金を払って食料や生活必需品を手に入れることが「豊かな暮らし」だと思う人のほうが多いのはなぜだろう……