……会話の相手が、
「アメリカに住んでいらしたんですか。アブナイ経験のなかでいちばん怖い思いをしたことはなんですか」
と、それこそ、目を輝かせて尋ねてくるのは四六時中だ。そして、この質問をするのも、決まって100パーセントが男性である。
なんとはなしに、彼らの潜在意識下に「どうだ、日本のほうがいい国だろう? なんたって安全なんだから。男だって日本人のほうがイイに決まっている。アメリカなんかがいいわけないさ」といった自意識が眠っているらしいことが感じられ、うっとうしいことこのうえない。
「なんかあったら面白かったんでしょうけどねぇ。残念ながら、サンフランシスコでもニューヨークでも、それから、その後に住んだイタリアのフィレンツェでも、ぜーんぜんなんにもありませんでしたね。日本に帰ってきたときに、京浜東北線の中で置き引きされてエライ目には遭いましたけど……。
アメリカは安全な場所と危険な場所、犯罪者とそうではない人の区別がはっきりしているから、防御策を考えやすいですよね。とくに、お金さえ払えば、それに応じた安全を保障してもらうことができる。でも、日本では社会がこれだけ狭くて、普通の暮らしのなかにいつ犯罪が飛び込んでくるかわからない感じがあるから、かえって怖いような気がしますけど。政治家や企業のトップが狙われたら、とても身を護れないんじゃないですか――」
いつも、私はそんな風に答えてきた。
最近の日本の犯罪状況を見ていると、やはり、日本人は「犯罪の少ない日本社会」を、無条件に過大評価し過ぎてきたのではないかという気がする。それも、「日本に比べれば他の国はずっと危険である。だから、日本の国の安全に感謝しましょう」というやり方で。
基本的には、日本も含め、どこの国をとってもアメリカと同じ程度には危険なのだ。いままで、それに気づかずに済んだ日本は幸せだったのかどうか……